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違法性及び差止請求件の根拠(訴状抜粋3)

 

3 本件公開買付に伴う「全部取得条項付種類株式」制度などの違法性
(1)① 全部取得条項付種類株式に関する会社法の定め
    会社は、株主総会の特別決議によりその種類の株式の全部を取得することができるという内容の種類株式(全部取得条項付種類株式)を発行することができる(会社108条1項7号2項7号・171条-173条)。
会社が既発行の種類株式を全部取得条項付種類株式にする定款変更を行うには、通常の定款変更の手続(会社466条・309条2項11号)のほか、当該定款変更を行う種類株式、及びその種類株式を交付される可能性のある取得請求権付株式・取得条項付株式に係る種類株主総会の決議を要し(会社111条2項・324条2項1号)、反対株主には、株式買取請求権が与えられる(会社116条1項2号)。
会社が全部取得条項付種類株式を取得するには、特別決議(会社309条2項3号)により、①取得対価の内容・数額等またはその算定方法(会社171条1項1号)、②株主に対する取得対価の割り当てに関する事項(会社171条1項2号・2項)、③取得日(会社171条1項3号)を決定することを要する。決議された取得対価に不満な株主は、裁判所に対し、取得の価格の決定の申立をすることができる(会社172条1項・868条1項・870条4号)。
  (2)① 本件公開買付は、最終的には公開買付に応じない株主の地位を「全部取得条項付種類株式」を利用して剥奪することになる。会社法の定める「全部取得条項付種類株式」は、組織再編に際して「対価」を払えば多数決によって少数株主の地位を奪える条文であって、その組織再編の目的についての限定文言はないために、きわめて恣意的に運用される危険性を有している。
       とりわけ、本件の場合のごとく、被買収者側の企業の取締役たちが買収者側の取締役として残り、しかも報酬1億円以内という高額の報酬を受領することを条件とするスキームにおいては、その「対価」は、取得後の利益相反性によりきわめて恣意的に決定される危険性がある。よって、本件のようなMBO的TBOについては、「当該企業の再生、再建等のやむを得ない相当の理由」がある場合にのみ認められるべきものである。無限定に会社法の形式的要件を満たせば少数株主の地位を剥奪できると解することは許されない。
 旧商法の下においては、会社が債務超過(破産法第16条1項)の場合においては、既存株主の持株を零にする100%減資は、同時に株式発行がなされるのであれば行い得ると解されていた。更正手続・再生手続においても100%減資は認められていたが、その手続以外でそれを行う場合には、株主全員の同意要すると解されていたものである。
しかし、株主全員の同意なくしては、100%減資ができないとすることは、会社の任意の再生手続において迅速性に欠けるとして「全部取得条項付種類株式」制度が新会社法の下で定められたものである。
このように「全部取得条項付種類株式」制度は、会社が債務超過等により任意の再生手続を行うことを迅速に進めることを目的に定められた制度である。そのような「全部取得条項付種類株式」制度が予定している正当な目的のためにのみ個々の株主の同意なしに100%減資あるいは、従前の株主権の株主総会の特別決議による一方的はく奪(いわば強制収用といえよう)が許されるものである。
被告吉本は、任意の再生手続等が必要となる経営状況とは無縁である。被告らが共謀してなそうとしている「全部取得条項付種類株式」制度を用いて株主総会の特別決議により株主権を多数決によりはく奪することは、この制度が予定している目的に反し、それを濫用して違法に株主権の侵害をなす行為である。
  (3) 本件公開買付の目的に少数株主権を剥奪するほどの価値が認められない
 ① 被告吉本は今、資本構成を変える必要性のある会社とは思われない。被告吉本の連結の経営指標等は、別表「主要な経営指標等の推移」記載のとおりであり、平成21年3月期は景気低迷の影響を受けて減収減益になっているものの、拡大基調にあり、まだ利益水準も高い。資本構成を変えてまで抜本的な改革を早急に行う事業ではない。良好な財務状態の優良企業であり、安定的に収益を計上している状況である。
    ② 被告クオンタムらは、本件TOBの目的を上記2(2)のとおり述べている。しかし、これは被告吉本の上場を維持しながら達成することは充分に可能であるし、とりわけ、本件TOBに反対する株主の同意なくその地位を剥奪してまでなさねばならないほどの価値を有しない。
      これらの目的は、事業提携、資本提携等によっても実現できる。被告吉本は豊富な資金を持ち、キャッシュフローも大きくプラスを継続しているため今すぐ資金調達の予定がなく、資金面では出資を受ける必要がない。どこかの傘下に入るのであればそこと一体となったシナジー創造も考えられるが、今回のように多数の企業が投資する場合は、それぞれの思惑もあるため強い繋がりにはなり難い。強力な協働が必要であれば、事業定型、資本提携、合弁会社設立などいろいろな方法があり得る。かえって、LBOによるローン返済、メザニン返済の負担が重く、常にキャッシュフローを向上させることを迫られることになる。買付者らの事業計画に記載されている利益計上額はMBO(TOB)の必達目標となり、結局は短期的利益を意識した経営になることは間違いない。
また、上場しているから機動的に経営判断できないというなら、日本の上場企業は全て機動的判断ができないことになる。上場が経営判断の足かせになると思うのは、経営陣が対外的に説明できる合理性を有した判断をしないことによるものである場合が多い。
しかも、金融機関等の買収ローン総額300億円についても、これがLBOとして買付者の100%子会社となり、合併した後、被告吉本が返済する額となる(手持ち資金が豊富なため短期間で返済できる)。被告吉本が300億円を支払って非上場になって資本構成を変え、新たな株主(メディア、キャリア等の投資家)との繋がりを持つためのコスト、資本支出として、合理性のある額なのか。300億円をなくすよりも、置いておいた方がよほど中長期的に腰を据えて事業変革できると思われる。
  (4) 1株あたり金1350円についての価格の不当性
    ① 過去5年間の株価と比較しても1350円は安すぎる。
【最近5年間の事業年度別最高・最低株価】

回次
第85期
第86期
第87期
第88期
第89期
決算年月
平成17年3月
平成18年3月
平成19年3月
平成20年3月
平成21年3月
最高(円)
1,665
3,480
3,380
1,991
1,446
最低(円)
905
1,532
1,859
1,241
829

      
 
 
 
 
 
 
※(注)株価は大阪証券取引所第一部による
 
    ② 被告吉本及び被告クオンタムの株価算定を整理すると、次の表のとおりとなる。
 
 

対象
算定機関
市場市価法
類似会社比準法
DCF法
DCF法(注)
 
会社側
アビームMA
932円~1,292円
974円~1,171円
1,218円~1,441円
1,331円~1,515円
 
買付者側
GCA
983円~1,292円
924円~1,218円
1,289円~1,604円
 
 

() アビームが公開買付者計画に基づきDCF法による資産を実施したもの
 
被告吉本側の算定機関が算定した株価が買付者側の算定した株価よりも「低い」という事実は、実に奇妙な結果を示している。
      一般的に、相対立するTOBならば、「会社側」の算定価格が高く、買付側の算定価格が低く算定される。その中で、売る側と買う側との真剣な交渉が本来あるべきところ、今回の1350円と決定した過程においては、そのような真剣な交渉が被告役員らによってなされた事実を見ることができない。
     ③ 今回の買取価格である1株当たり1350円の価格が妥当かどうか、全く判断することができない。
      イ. 「市場株価平均法」では、リーマンショック及び100年に1度という世界不況の中で著しく株価が低落した「異常時」を基準とするものであり、その異常時の価格を固定化することは妥当な計算方法ではない。株価が異常に下がったときを悪用しているとしか思われない。
      ロ. 「類似会社比較法」も、被告吉本と類似する企業の財務指標を比較しているとのことであるが、どこの類似企業と比較したのか全く不明である。
      ハ. DCF法による平成22年3月から平成29年3月期までの被告吉本の「収益予想(事業計画)」を根拠としたとするが、その事業計画が株主に全く開示されていない。「中期事業計画」の算定は、実際には、買付会社の役員として残ることが保証、約束された会長、社長らが関与して決定した。被告吉本の取締役の立場と買付会社側の役員として残る立場は利益相反している。このような買付会社側の取締役になる予定の取締役が決定した「事業計画」は、買付側に有利な計画として算定されている可能性がきわめて大きく、過去のMBO事件の判例にもそのような点が争点となり、会社が敗訴している。
          以上のとおり、本件は世上言われているように一般のTOBではなく、取締役が資金こそ出さないが、買付側の立場、利益を考慮する危険性を持つMBOの性格を有している。その点で、利益相反の危険性がある取締役が参加して決定した「7年間の事業計画」は、恣意的に決定されている可能性が大である。
     ④ 以上のような、極めて「不透明な株価算定」資料に、「プレミアム」の実例を勘案したとしても、その基本算定株価が不透明である以上、買付価格1350円も極めて不透明であるし、安い。
(5) 被告吉本は、今まで配当政策として、「安定的な利益配当」を基本方針としていた。今回のTOB(MBO)はこれとも矛盾する。
      『当社は、今後の事業展開と経営体質の強化に必要な内部留保の確保や経営環境等を総合的に勘案し、業績に対応した、かつ安定的な利益配分を行うことを基本方針としております。当社の剰余金の配当は、中間配当と期末配当の年2回を基本方針としております。これらの剰余金の配当の決定機関は、中間配当については取締役会、期末配当については株主総会であります。また、内部留保金については、将来の事業展開に必要な有効投資に充当し、経営基盤の強化、事業拡大に努める所存であります。なお、当社は、取締役会の決議により毎年9月30日を基準日として、中間配当を行うことができる旨を定款に定めております。基準日が当事業年度に属する剰余金の配当は以下のとおりであります。』
          

決議年月日
配当金の総額(千円)
1株当たり配当額(円)
平成20年11月12日
421,561
11
取締役会決議
平成21年6月25日
412,345
11
定時株主総会決議

 
株主総会で、経営陣は株主に対し、将来戦略や事業計画を説明し、そのため内部留保を重視する政策を示し、配当金額を低く抑えるが、安定的な配当を約束していた。これは、経営陣が将来株主の付託に応えるためにその内部留保を高く設定していたのである。もし今後の業績に不安があるなら、今こそその内部留保を活用して新たな成長戦略を策定、実行するはずである。それを行わず会社を売却し、既存株主の株式を強制的に買取することは、株主に対する「安定的配当政策」という約束とも矛盾する。
  (6) ファンダンゴの異常な上場廃止と一般株主の排除
   ① 被告吉本の子会社であったファンダンゴは、平成18年2月に大証ヘラクレス市場に上場した。上場時に公募増資として70万株、1

株当りの価格が4,900円であり、総額34億3千万円が会社に入った。上場時の初値の高値は11,380円まで値を付け、上

場廃止時点では概ね2,500円程度であった。
     
上場6ヶ月前に1株500円で第三者割り当て増資を行っており、特にこの株主たちは上場に売り抜ければ巨額の利益を手にし

ていたことは確実である。

    ところで、上場時の平成18年3月期決算(連結ベース)では、現金預金が64億円あったものが平成19年9月中間期では2

0億円まで減少し、44億円が消失している。その主な支出先は、関係会社株式7億円、投資有価証券3億円、長期前払費用と

して7億円、マスターテープ代として8億円、その他の支出7億円、運転資金として7億円で合計39億円に上る。

  平成19年3月20日、吉本興業はファンダンゴの上場廃止を公表した。吉本興業の株式と株式交換の上、ファンダンゴの完

全子会社を行い、平成19年9月25日に上場廃止した。このような短期の上場廃止は通常あり得ない。この理由は、39億円程

の巨額の資金が不透明な形で流出した結果、上場会社としては乗り切れないと踏んで、上場廃止することにより株主らからの

追及を逃れる目的で行ったのではないかと原告らは考えている。
    
          ② 本件TOBは、ファンダンゴを子会社化にすることによって、この39億円余の不透明な金の支出について被告吉本の株主らの追及を

免れようとして被告役員らが各テレビ会社等に出資要請を行ったものであり、その目的においても不当である。
  (7) 以上のような被告らの行為は、経営者の許される合理的な裁量の範囲を大幅に逸脱したTOB=実質的にはMBOであるから、全部取得条項付株式制度を悪用して原告らの株主の地位を剥奪することは、原告らの株主権を侵害するもので、違法である。
4 差止請求権の根拠
    (1) 本件被告らは被告吉本の株主総会に、請求の趣旨記載の議案を付議しようとしている。しかし、各議案は、全部取得条項付種類株式制度の正当な目的から逸脱した違法なものであり、各議案が特別決議の多数決により議決されれば、原告らの株主たる地位を違法に剥奪することになる(民法709条)。
     本件のごとく株主総会が開催され可決されてから、株主総会の取消訴訟や会社法の株式買取請求制度を利用しても原告ら株主には回復しがたい損害が生じるので、民法709条により、本株主総会までにその差止を求めるものである。
  (2) 被告吉本ならびに被告役員らは、被告クオンタムのTOBを企画し、それを実行させ、しかもそれに対して賛同意見表明を行った。これは、被告吉本の株式を持ち続けたいと願う原告らの期待を奪うものであり、原告らは精神的苦痛を受けた。これを金額に換算すると金1万円が相当である。
よって、請求の趣旨第2項を求める次第である。
 
以 上