吉本興業答弁内容(第一回)

 

第一回期日の吉本興業の答弁の要旨です。

長いので訴状に対応する部分はこちらで書き込みました。

訴状抜粋の文中にある

《・・・・・・・》が答弁の内容です。

また吉本興業、役員、クオンタムの主張については別頁に記載しております。

(注)吉本興業様および代理人さまへ
答弁の編集は管理人がいたしました。もしおかしな点がありましたらご指摘ください。

 

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訴     状

 

第1 請求の趣旨
 1 被告らは、被告吉本興業株式会社の株主総会において、原告らの同意なく、原告らの株主権を喪失させる「普通株式とは別の種類の株式を発行できる旨の定款変更」、「発行済の全ての普通株式に全部取得条項を付す定款変更」の議案を付議してはならない。
 2 被告吉本興業株式会社及び被告○○○○○、被告○○○、被告○○○○は、原告らそれぞれに対し、各自金1万円を支払え。
 3 訴訟費用は被告らの負担とする。
 との判決ならびに第2項についての仮執行の宣言を求める。
 
第2 請求の原因
 はじめに
(1) 吉本興業株式会社は、関西から笑いの文化を生み出した企業であり、上場後、これらの笑いの文化が好きな庶民達によって育ってきた企業である。その笑いの文化を愛し育ててきた多数の個人株主から、その株主の地位を、大手メジャーのテレビ会社やファンドに言わば「身売り」するのが、今回の「TOB」の姿である。このスキームを計画し、大手テレビ会社などに持ちかけたのは吉本の経営者たちである。彼らはその後も買収会社の役員として残り、1億円の範囲内で報酬が約束された、いわば形を変えた「MBO」(マネジメント・バイ・アウト)でもある。
(2) 吉本の役員らは、2005年に吉本の子会社でコンテンツ配信会社である株式会社「ファンダンゴ」を上場させ、巨額のカネが入るや1年半後に非上場にし、再度、吉本の子会社にした。この結果、吉本関連の企業のカネの流れはより不透明になった。今回のTOBによる上場廃止によって、吉本のカネの流れはより一層不透明となる。
(3) 最大の問題は、現経営者らがテレビ会社やファンドと提携し、「TOB」に賛同しない株主から、1株あたり1350円のカネでその地位を一方的に剥奪しようとしている点である。このような吉本のような笑いの文化を愛し、好んできた個人株主の地位を、カネを払えばよいのだろうと、全部取得条項付種類株式制度などを乱用して、一方的に剥奪しようと計画した現経営者らの行為が許されるのかどうかを問う裁判である。
2 同時に、この裁判は、上場企業の役員達がファンドなどの公開買付会社と共謀し、当該企業の既発行の少数株主の地位を剥奪することが許されるかどうかを問う裁判である。吉本に限らず、MBO(マネジメント・バイ・アウト)のあり方を問う裁判でもある。
《原告の独自に意見ないし評価につき認否を要しない》
 
 
 
2 本件公開買付の概要とその内容
  (1) 概要
       2009年(平成21年)9月11日、被告クオンタムは、被告吉本が所有する自己株式を除く全株式37,485,962株を取得することを目的として、本件公開買付すると公表した(甲1)。被告吉本は、同日、これに対し、「賛同意見表明」をした(甲2)。
《認める》
     この概要を整理すると次のとおりとなる。
      買付者 : 被告クオンタム
・ 出資社 :㈱フジ・メディア・ホールディングス(30億円)、日本テレビ放送網㈱(20億円)、㈱TBSテレビ(20億円)、㈱テレビ朝日(20億円)、㈱テレビ東京(10億円)、㈱電通(10億円)、ソフトバンク㈱(15億円)、ヤフー㈱(5億円)、大成土地㈱(5億円)、大成建設㈱(20億円)、岩井証券㈱(5億円)、㈱フェイス(10億円)、京楽産業㈱(20億円)、
上記出資社合計190億円
・ MCo1号投資事業有限責任組合 50億円
・ 買付けの期間: 平成21年9月14日(月)から平成21年10月29日(木)まで(30営業日)
・ 公告日 : 平成21年9月14日(月)
・ 買付け価格 : 1株につき1,350円
・ 買付予定数の下限 : 26,240,174株(平成21年3月31日現在における当社発行済み株式総数から自己株式1,520,841株を差し引いた株式数の70%に相当)
・ 買付予定数の上限 : なし(買付予定数の下限以上の応募があった場合は、応募株券等の全てを買付ける。)
・ 上記金融機関の買収ローン総額 : 300億円
㈱三井住友銀行、住友信託銀行㈱、㈱みずほ銀行
・ 証券取引所開示日 : 平成21年9月11日
・ 本件公開買付けの成立を条件として、全部取得条項付種類株式を利用する方法により少数株主をスクイーズアウト、完全子会社とした後に合併する。
・ 代表取締役会長吉野伊佐男氏及び代表取締役社長大洋氏に対して、本件公開買付けの成立後、買付者及び合併後の買付者の取締役としての職務を行うこと、取締役中多広志氏に対して合併後に買付者の取締役としての職務を行うこと、吉野伊佐男氏、大洋氏及び中多広志氏に対して本件公開買付け成立後も引き続き取締役に留任し、取締役としての職務を行うことを買付者は要請し、同要請にもとづき吉野伊佐男氏、大洋氏及び中多広志氏は経営委任契約を締結することを合意。
・ 買収ローンに係る契約に基づき負担する債務につき、その契約の定めるところに従い、吉野伊佐男氏及び大洋氏ならびに中多広志氏に連帯保証を委託し、吉野氏らもこれを受諾することを合意。
《概ね認める》
  (2) 本件公開買付の目的
     被告吉本は、テレビ等の放送会社、インターネットサービス事業者であるソフトバンク、広告会社である電通等と資本関係を強化することで、被告吉本の「今後の成長への新たな展望、収益の安定拡大のための基盤の構築に資することにより次のような効果を発揮できる」という(甲1、甲2)。
《否認する。目的を定めるのはクオンタムである。》
      『第一に、国内における、本件メディア関連出資者及び吉本間でのコンテンツのマルチユースの加速です。例えば、ソフトバンクと吉本による「S1バトル」の取り組みは、モバイル上の動画コンテンツとして、若者を中心に大きな人気を博し、両者にとって、新たなビジネスモデルを構築する上での画期的な成功例となりつつあります。完全子会社化手続を通じて本件メディア関連出資者と吉本との資本関係が強化された後は当初からマルチユースを見越した企画立案を行っていくことで、吉本は消費者にとって目新しい仕掛け(エンターテイメント)をこれまで以上に大きくかつスピーディーに展開することが可能となります。他にも、例えば広告対象分野を拡大していくこと等、コンテンツマルチユースには様々な可能性が存在します。かかるコンテンツマルチユースに対する吉本によるコンテンツの提供は、吉本にとって、今後中長期にわたり成長の柱となり得る新たなビジネスモデルであると認識しています。
第二に、吉本のコンテンツ及びビジネスモデルのアジア展開です。国内経済が成熟する一方で、エンターテイメント産業を俯瞰すると、今後の大きな成長機会は経済成長の著しいアジアに存在すると認識しています。日本のエンターテイメントコンテンツは、コンテンツそのものだけでなく番組フォーマッットなども含めて、アジアをはじめ世界でも人気を確立しつつあります。公開買付者は、吉本のビジネスモデルをアジアで本賂的に展開することができれば、アジアNo.1のエンターテイメント産業を創出することも可能であると考えています。』
        そのためには、
         『公開買付者は、吉本の現状の課題、今後の戦略及び現状を打開するための積極的なビジネスモデル変革は必ずしも当初の想定どおりに収益に寄与するとは限らずリスクを伴うものである一方、上場企業として重視すべき各期利益の最大化という課題と中長期的競争力の強化という課題は、ときとして両立困難となる可能性もあると考えております。そこで、公開買付者は、公開買付者による吉本の資本再構築を目的とする非公開化が実現すれば、吉本は、簡素化された株主構成の下、経営判断のより一層の迅速化を図り、短期的な業績の変動に左右されることなく、機動的な経営判断が遂行できる組織体制を構築することが可能となるとの判断のもと、かかる吉本の資本構成の再構築を行うことを通じて本件メディア関連出資者と吉本との間のパートナーシップを確立することで、上記のような本件メディア関連出資者及び吉本における企業価値の向上、ひいては日本のエンターテイメント産業全体の成長の可能性を速やかに追求し実現していくことが可能であると考え、本公開買付けの実施を決定するに至りました。』と述べている。
《プレスリリースにあることは概ね認める》
  (3) 全部取得条項付きの種類株式制度の利用
    ① 被告吉本及び被告クオンタムは、次の手続を行い、個人株主の地位を剥奪する。
イ.被告吉本において普通株式とは別の種類の株式を発行できる旨の定款変更を行うことにより、被告吉本を会社法の規定する種類株式発行会社とする。
ロ.被告吉本の発行する全ての普通株式に全部取得条項(会社法第108条第1項第7号)に規定する事項を付す旨の定款変更を行う。
ハ. 被告吉本の当該株式の全部(自己株式を除く)の取得と引き換えに別個の種頬の被告吉本の株式を交付する。
    ことを議案にした被告吉本の株主総会が開催される。
    ② 上記株主総会にて上記イが可決されると、被告吉本は会社法の規定する種類株式発行会社となるが、上記ロについては、会社法第111条第2項第1号に基づき、上記株主総会の決議に加えて、株式の内容として全部取得条項が付される被告吉本の普通株式を保有する株主を構成員とする種類株主総会の決議が必要となるため、公開買付者は、被告吉本に対し、上記ロの定款一部変更を付議議案に含む被告吉本の普通株主による種類株主総会が開催される。
      上記の各手続が実行された場合には、被告吉本の発行する全ての普通株式は全部取得条項が付された上で、その全て(自己株式を除く)が被告吉本に取得されることとなり、被告吉本の株主には当該取得の対価として被告吉本の別個の種類の株式が交付されることになるが、被告吉本の株主のうち、交付されるべき当該別個の種類の吉本株式の数が1株に満たない端数となる株主に対しては、会社法第234条その他の関係法令の定める手続に従い、当該端数の合計数(合計した数に端数がある場合には当該端数は切り捨てる)に相当する当該別個の種類の吉本株式を売却すること等によって得られる金銭が交付される。
      当該売却の結果、各株主に交付されることになる金銭の額が、本公開買付価格に当該各株主が保有していた吉本の普通株式の数を乗じた価格と同一になるよう算定する予定である。
     公開買付者は、原則として、平成22年6月30日を目処に、被告吉本を公開買付者の完全子会社とするための施策を完了させる。
     公開買付者は上記の各手続の実行後に、本件合併を行うことになる。
  (4) 本件公開買付価格等
    ① 被告吉本の普通株式1株あたり1350円とする
 《認める。またこれは適正な価格である》
          この価格決定は、市場評価法、類似会社比較法及びDCF法による評価においても適正であるという。
       ② 公開買付期間
      平成21年9月14日から平成21年10月29日まで(30営業日)
    ③ 決済の開始日
      平成21年11月10日
  (5) 被告役員の処遇
     吉野氏及び大崎氏は、公開買付者との間で、本公開買付け後の公開買付者の取締役への就任等に関してそれぞれ経営委任契約を締結し、
    (イ) それぞれ本公開買付けの成立後、公開買付者の取締役として選任された日から、公開買付者の取締役としての職務を行う。
       (ロ) 上記各経営委任契約においては、吉野氏及び大崎氏が受領する公開買付者の取締役としての報酬や対象者の取締役としての報酬の上限が定められていること。
    (ハ) 吉野氏及び大崎氏が、公開買付者が本件買収ローン契約に基づき負担する債務につき、本件買収ローン契約の定めるところに従い、連帯して保証する。
    (ニ) 中多氏も、公開買付者との間で、合併新会社の取締役への就任等に関して経営委任契約を締結し、
      ・ 本件合併後に合併新会社の取締役としての職務を行うこと
      ・ 本公開買付けの成立後も引き続き対象者の取締役に留任し、取締役としての職務を行うこと
      ・ 上記経営委任契約においては、中多氏が受領する対象者の取締役としての報酬や合併新会社の取締役としての報酬の上限が定められていること
    中多氏が、公開買付者が本件買収ローン契約に基づき負担する債務につき、本件買収ローン契約の定めるところに従い、連帯して保証すること
《概ね認める》
 
3 本件公開買付に伴う「全部取得条項付種類株式」制度などの違法性
(1)① 全部取得条項付種類株式に関する会社法の定め
    会社は、株主総会の特別決議によりその種類の株式の全部を取得することができるという内容の種類株式(全部取得条項付種類株式)を発行することができる(会社108条1項7号2項7号・171条-173条)。
会社が既発行の種類株式を全部取得条項付種類株式にする定款変更を行うには、通常の定款変更の手続(会社466条・309条2項11号)のほか、当該定款変更を行う種類株式、及びその種類株式を交付される可能性のある取得請求権付株式・取得条項付株式に係る種類株主総会の決議を要し(会社111条2項・324条2項1号)、反対株主には、株式買取請求権が与えられる(会社116条1項2号)。
会社が全部取得条項付種類株式を取得するには、特別決議(会社309条2項3号)により、①取得対価の内容・数額等またはその算定方法(会社171条1項1号)、②株主に対する取得対価の割り当てに関する事項(会社171条1項2号・2項)、③取得日(会社171条1項3号)を決定することを要する。決議された取得対価に不満な株主は、裁判所に対し、取得の価格の決定の申立をすることができる(会社172条1項・868条1項・870条4号)。
  (2)① 本件公開買付は、最終的には公開買付に応じない株主の地位を「全部取得条項付種類株式」を利用して剥奪することになる。会社法の定める「全部取得条項付種類株式」は、組織再編に際して「対価」を払えば多数決によって少数株主の地位を奪える条文であって、その組織再編の目的についての限定文言はないために、きわめて恣意的に運用される危険性を有している。
《限定文言はないことは認める。それ以外は争う》
       とりわけ、本件の場合のごとく、被買収者側の企業の取締役たちが買収者側の取締役として残り、しかも報酬1億円以内という高額の報酬を受領することを条件とするスキームにおいては、その「対価」は、取得後の利益相反性によりきわめて恣意的に決定される危険性がある。よって、本件のようなMBO的TBOについては、「当該企業の再生、再建等のやむを得ない相当の理由」がある場合にのみ認められるべきものである。無限定に会社法の形式的要件を満たせば少数株主の地位を剥奪できると解することは許されない。
② 旧商法の下においては、会社が債務超過(破産法第16条1項)の場合においては、既存株主の持株を零にする100%減資は、同時に株式発行がなされるのであれば行い得ると解されていた。更正手続・再生手続においても100%減資は認められていたが、その手続以外でそれを行う場合には、株主全員の同意要すると解されていたものである。
しかし、株主全員の同意なくしては、100%減資ができないとすることは、会社の任意の再生手続において迅速性に欠けるとして「全部取得条項付種類株式」制度が新会社法の下で定められたものである。
このように「全部取得条項付種類株式」制度は、会社が債務超過等により任意の再生手続を行うことを迅速に進めることを目的に定められた制度である。そのような「全部取得条項付種類株式」制度が予定している正当な目的のためにのみ個々の株主の同意なしに100%減資あるいは、従前の株主権の株主総会の特別決議による一方的はく奪(いわば強制収用といえよう)が許されるものである。
被告吉本は、任意の再生手続等が必要となる経営状況とは無縁である。被告らが共謀してなそうとしている「全部取得条項付種類株式」制度を用いて株主総会の特別決議により株主権を多数決によりはく奪することは、この制度が予定している目的に反し、それを濫用して違法に株主権の侵害をなす行為である。
  (3) 本件公開買付の目的に少数株主権を剥奪するほどの価値が認められない
 ① 被告吉本は今、資本構成を変える必要性のある会社とは思われない。被告吉本の連結の経営指標等は、別表「主要な経営指標等の推移」記載のとおりであり、平成21年3月期は景気低迷の影響を受けて減収減益になっているものの、拡大基調にあり、まだ利益水準も高い。資本構成を変えてまで抜本的な改革を早急に行う事業ではない。良好な財務状態の優良企業であり、安定的に収益を計上している状況である。
    ② 被告クオンタムらは、本件TOBの目的を上記2(2)のとおり述べている。しかし、これは被告吉本の上場を維持しながら達成することは充分に可能であるし、とりわけ、本件TOBに反対する株主の同意なくその地位を剥奪してまでなさねばならないほどの価値を有しない。
《クオンタムが述べたことは認める。それ以外は争う》
      これらの目的は、事業提携、資本提携等によっても実現できる。被告吉本は豊富な資金を持ち、キャッシュフローも大きくプラスを継続しているため今すぐ資金調達の予定がなく、資金面では出資を受ける必要がない。どこかの傘下に入るのであればそこと一体となったシナジー創造も考えられるが、今回のように多数の企業が投資する場合は、それぞれの思惑もあるため強い繋がりにはなり難い。強力な協働が必要であれば、事業定型、資本提携、合弁会社設立などいろいろな方法があり得る。かえって、LBOによるローン返済、メザニン返済の負担が重く、常にキャッシュフローを向上させることを迫られることになる。買付者らの事業計画に記載されている利益計上額はMBO(TOB)の必達目標となり、結局は短期的利益を意識した経営になることは間違いない。
また、上場しているから機動的に経営判断できないというなら、日本の上場企業は全て機動的判断ができないことになる。上場が経営判断の足かせになると思うのは、経営陣が対外的に説明できる合理性を有した判断をしないことによるものである場合が多い。
しかも、金融機関等の買収ローン総額300億円についても、これがLBOとして買付者の100%子会社となり、合併した後、被告吉本が返済する額となる(手持ち資金が豊富なため短期間で返済できる)。被告吉本が300億円を支払って非上場になって資本構成を変え、新たな株主(メディア、キャリア等の投資家)との繋がりを持つためのコスト、資本支出として、合理性のある額なのか。300億円をなくすよりも、置いておいた方がよほど中長期的に腰を据えて事業変革できると思われる。
  (4) 1株あたり金1350円についての価格の不当性
    ① 過去5年間の株価と比較しても1350円は安すぎる。
 
 
【最近5年間の事業年度別最高・最低株価】

回次
第85期
第86期
第87期
第88期
第89期
決算年月
平成17年3月
平成18年3月
平成19年3月
平成20年3月
平成21年3月
最高(円)
1,665
3,480
3,380
1,991
1,446
最低(円)
905
1,532
1,859
1,241
829

      
 
 
 
 
 
 
※(注)株価は大阪証券取引所第一部による
 
    ② 被告吉本及び被告クオンタムの株価算定を整理すると、次の表のとおりとなる。
 
 

対象
算定機関
市場市価法
類似会社比準法
DCF法
DCF法(注)
 
会社側
アビームMA
932円~1,292円
974円~1,171円
1,218円~1,441円
1,331円~1,515円
 
買付者側
GCA
983円~1,292円
924円~1,218円
1,289円~1,604円
 
 

() アビームが公開買付者計画に基づきDCF法による資産を実施したもの
 
被告吉本側の算定機関が算定した株価が買付者側の算定した株価よりも「低い」という事実は、実に奇妙な結果を示している。
      一般的に、相対立するTOBならば、「会社側」の算定価格が高く、買付側の算定価格が低く算定される。その中で、売る側と買う側との真剣な交渉が本来あるべきところ、今回の1350円と決定した過程においては、そのような真剣な交渉が被告役員らによってなされた事実を見ることができない。
《記載された表は認めるが後は争う》
《被告役員らは公開買付決定にかかる交渉に関与していない》
     ③ 今回の買取価格である1株当たり1350円の価格が妥当かどうか、全く判断することができない。
      イ. 「市場株価平均法」では、リーマンショック及び100年に1度という世界不況の中で著しく株価が低落した「異常時」を基準とするものであり、その異常時の価格を固定化することは妥当な計算方法ではない。株価が異常に下がったときを悪用しているとしか思われない。
      ロ. 「類似会社比較法」も、被告吉本と類似する企業の財務指標を比較しているとのことであるが、どこの類似企業と比較したのか全く不明である。
      ハ. DCF法による平成22年3月から平成29年3月期までの被告吉本の「収益予想(事業計画)」を根拠としたとするが、その事業計画が株主に全く開示されていない。「中期事業計画」の算定は、実際には、買付会社の役員として残ることが保証、約束された会長、社長らが関与して決定した。被告吉本の取締役の立場と買付会社側の役員として残る立場は利益相反している。このような買付会社側の取締役になる予定の取締役が決定した「事業計画」は、買付側に有利な計画として算定されている可能性がきわめて大きく、過去のMBO事件の判例にもそのような点が争点となり、会社が敗訴している。
          以上のとおり、本件は世上言われているように一般のTOBではなく、取締役が資金こそ出さないが、買付側の立場、利益を考慮する危険性を持つMBOの性格を有している。その点で、利益相反の危険性がある取締役が参加して決定した「7年間の事業計画」は、恣意的に決定されている可能性が大である。
     ④ 以上のような、極めて「不透明な株価算定」資料に、「プレミアム」の実例を勘案したとしても、その基本算定株価が不透明である以上、買付価格1350円も極めて不透明であるし、安い。
《③、④とも否認ないし争う》
(5) 被告吉本は、今まで配当政策として、「安定的な利益配当」を基本方針としていた。
《認める》
今回のTOB(MBO)はこれとも矛盾する。
《否認する》
      『当社は、今後の事業展開と経営体質の強化に必要な内部留保の確保や経営環境等を総合的に勘案し、業績に対応した、かつ安定的な利益配分を行うことを基本方針としております。当社の剰余金の配当は、中間配当と期末配当の年2回を基本方針としております。これらの剰余金の配当の決定機関は、中間配当については取締役会、期末配当については株主総会であります。また、内部留保金については、将来の事業展開に必要な有効投資に充当し、経営基盤の強化、事業拡大に努める所存であります。なお、当社は、取締役会の決議により毎年9月30日を基準日として、中間配当を行うことができる旨を定款に定めております。基準日が当事業年度に属する剰余金の配当は以下のとおりであります。』
《有価証券報告書のこの文言の記載は認める》
          

決議年月日
配当金の総額(千円)
1株当たり配当額(円)
平成20年11月12日
421,561
11
取締役会決議
平成21年6月25日
412,345
11
定時株主総会決議

 
株主総会で、経営陣は株主に対し、将来戦略や事業計画を説明し、そのため内部留保を重視する政策を示し、配当金額を低く抑えるが、安定的な配当を約束していた。これは、経営陣が将来株主の付託に応えるためにその内部留保を高く設定していたのである。もし今後の業績に不安があるなら、今こそその内部留保を活用して新たな成長戦略を策定、実行するはずである。それを行わず会社を売却し、既存株主の株式を強制的に買取することは、株主に対する「安定的配当政策」という約束とも矛盾する。
《否認する》
  (6) ファンダンゴの異常な上場廃止と一般株主の排除
《関係ない話だが否認する》
   ① 被告吉本の子会社であったファンダンゴは、平成18年2月に大証ヘラクレス市場に上場した。上場時に公募増資として70万株、1株当りの価格が4,900円であり、総額34億3千万円が会社に入った。上場時の初値の高値は11,380円まで値を付け、上場廃止時点では概ね2,500円程度であった。
《公募増資のみ認める》
      上場6ヶ月前に1株500円で第三者割り当て増資を行っており、特にこの株主たちは上場に売り抜ければ巨額の利益を手にしていたことは確実である。
《増資のみ認める.。ただし10ヶ月前である》
ところで、上場時の平成18年3月期決算(連結ベース)では、現金預金が64億円あったものが平成19年9月中間期では20億円まで減少し、
《ここまでは認める》
44億円が消失している。その主な支出先は、関係会社株式7億円、投資有価証券3億円、長期前払費用として7億円、マスターテープ代として8億円、その他の支出7億円、運転資金として7億円で合計39億円に上る。
《貸借対照表上の増減に関してのみ認める》
平成19年3月20日、吉本興業はファンダンゴの上場廃止を公表した。吉本興業の株式と株式交換の上、ファンダンゴの完全子会社を行い、平成19年9月25日に上場廃止した。
《以下は否認ないし争う》
このような短期の上場廃止は通常あり得ない。この理由は、39億円程の巨額の資金が不透明な形で流出した結果、上場会社としては乗り切れないと踏んで、上場廃止することにより株主らからの追及を逃れる目的で行ったのではないかと原告らは考えている。
    ② 本件TOBは、ファンダンゴを子会社化にすることによって、この39億円余の不透明な金の支出について被告吉本の株主らの追及を免れようとして被告役員らが各テレビ会社等に出資要請を行ったものであり、その目的においても不当である。
《否認ないし争う》
  (7) 以上のような被告らの行為は、経営者の許される合理的な裁量の範囲を大幅に逸脱したTOB=実質的にはMBOであるから、全部取得条項付株式制度を悪用して原告らの株主の地位を剥奪することは、原告らの株主権を侵害するもので、違法である。
《争う》
                                 
4 差止請求権の根拠
    (1) 本件被告らは被告吉本の株主総会に、請求の趣旨記載の議案を付議しようとしている。しかし、各議案は、全部取得条項付種類株式制度の正当な目的から逸脱した違法なものであり、各議案が特別決議の多数決により議決されれば、原告らの株主たる地位を違法に剥奪することになる(民法709条)。
     本件のごとく株主総会が開催され可決されてから、株主総会の取消訴訟や会社法の株式買取請求制度を利用しても原告ら株主には回復しがたい損害が生じるので、民法709条により、本株主総会までにその差止を求めるものである。
  (2) 被告吉本ならびに被告役員らは、被告クオンタムのTOBを企画し、それを実行させ、しかもそれに対して賛同意見表明を行った。これは、被告吉本の株式を持ち続けたいと願う原告らの期待を奪うものであり、原告らは精神的苦痛を受けた。これを金額に換算すると金1万円が相当である。
よって、請求の趣旨第2項を求める次第である。
《賛同意見表明は認め他は争う》
                                   以 上